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クセ強なやきもの商社「丸兄(まるけい)」看板を追いかけて 【前編】

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ある看板が、あなたの原風景となっていることはないか?わたしはある。


物心ついてから5年間ほど、毎週のように祖父母の家に通っていた。その道すがらに看板はあって、だから実質、祖父母の顔と同じぐらい見ている。


やきもの商社『丸兄(まるけい)』の看板だ。「有田焼のデパート」「陶賓館(とうひんかん)」「毎日陶器市」といった景気のよさを感じるフレーズが躍っている。他にも、古いフィルムカメラの味わいのある親子の写真など、黄色い看板一枚のなかに情報がとことん詰め込まれているのだ。


なかでも印象に残るのは、中折れハットの男性が写った、丸く切り抜かれた写真。卒業写真でやむなく欠席しちゃった人みたいだなと一瞬思ったけれど、それと明らかに違うのは、彼がニヒルかつ爽やかな笑みを浮かべているところだ。写真の下に「いらっしゃい。」とセリフが書いてあるから、きっとお店の偉い人だろう。彼の正体は一体……。


それだけではない。迫りくるデカさ・設置箇所の多さ・形状もさまざまと、とにかく「見てよ!来てよ!」の熱気がスパークしているのだ。


気になってはいた。しかし、隣の佐賀県まで車を運転するのこわいなぁなどと躊躇しているうちに30歳を過ぎた(その頃には車も心も傷ついてたくましくなっていた)。満を持して店舗に足を運んだとき、そこには看板を越えたワンダーランドが広がっていたのである。


ひっくり返りそうになりながらも、同時に知りたくなった。看板のこと、お店の歴史、中折れハットの男性の正体など……。取材をさせてほしいと何度か申し出をし、ようやく了承していただけることとなった。


本年度は終了してしまったが、「有田陶器市」がもう一回やってきたばりの賑やかさでもって、有田のワンダーランド『丸兄』についてお伝えしたい。どうか前編と後編、最後まで読んでほしい。


<目次>


たたずむ、そびえ立つ、迫りくる!バリエーション豊かな丸兄看板

創業100有余年の歴史を持つ『丸兄(まるけい)商社』の看板はとにかくでかい。佐世保市内南部、佐賀県有田町、伊万里市といった、焼き物の産地や観光地エリアといった一等地で存在感を放ちまくっているのだ。

まずはそれらの一部をご紹介しよう。


わたしがもっとも目にしていた、早苗町交差点の丸兄看板から。

看板写真
佐世保市・早苗町交差点にて。本の背表紙と裏表紙のような両面タイプなのだ(現在は別の会社の看板になっています)。ここに写っている中折れハットの男性は白シャツを着ている
看板写真
逆サイドはこんな感じ。(現在は別の会社の看板になっています)
看板写真
木原町・三川内焼の産地近く

ラーメンと看板の写真
同じく三川内エリアにて。丸兄看板を眺めながら食べるのがこれまた最高。中折れハットの男性の顔の前に木が生い茂っているのでどうか剪定してほしい。
看板写真
有田町から伊万里市へ続く道に、横断幕のごとく広がる看板。この看板の男性は黄色いスーツだ!
看板写真
伊万里焼きの産地・大川内山を行き来する人は必ず目にする。秋には彼岸花とのコラボも
看板写真
ハウステンボス駅の向かい。枠組みが露出しており、一部撤去されているのがわかる(2025年当時)
看板写真
丸兄のホームタウンである有田町では、この電柱タイプが賑やかに立ち並ぶエリアもある

こんなにバリエーション豊かな看板を見たことがあるだろうか。わたしはいまだかつてない。「とにかくお店のことを知ってほしい」という強い想い。看板の形も設置場所も、惜しまず妥協しない。きっと、依頼された看板屋さんは大層やりがいを感じたことだろう。


強烈なインパクトを放つ丸兄看板だったが、それらは長い年月をかけて“まちの風景”となったのだ。


丸兄看板マップをつくりました。


上記は埋め込み上手くいかなかったので、各ポイントはちらからごらんくださいませ。




しかしこの看板、真骨頂は本店にあった。



“有田最大の展示場”の名は大げさではなかった

看板写真
看板の側面、支柱も存分に使ってお店の存在を伝えている

佐世保市内から約30分かけて佐賀県有田町の「丸兄商社」へ。徐々に近づくにつれ、まるで濃霧に突っ込んで行くかのごとく看板の数が増してくる。運転中なのにあちこち目を奪われながら到着。おそらくカーナビは要らなかった。


そして眼前に広がるのは、さらなる看板・看板、そして看板カラーの外装だった。「もう着いた!だからもう大丈夫だ!」とアシタカばりに叫びたくなるのをぐっと堪える。


ふいに、これはきっと選手入場の際に、吹奏楽部がファンファーレを鳴らしてくれているようなものと解釈した。買い物気分を上げてくれる効果があるに違いない。ほら、現にいま、ワクワクしているから。


さぁ、まずは広い敷地内をぐるっと歩いてみようじゃないか。


丸兄写真
丸兄ワールドは駐車場から始まっている。有田焼の銘品が惜しみなく飾られたここは「ギャラリー駐車場」という名前がついている。実は、正面入口ではない。
丸兄写真
観光バス用の駐車場から近いため、ツアー客はここからぞろぞろと入っていく
丸兄写真
ホテルやレストランといった業者さん向けの展示販売場
丸兄写真
第二展示場。側面でもぬかりなくメッセージを伝えている
丸兄写真
看板で見た「300名収容のろくろ・絵付け体験」ができる工場。実物を見れて感動
丸兄写真
さらに、トンネルの先にも異世界は続いており……
丸兄写真
ここも販売展示場。建物に趣がある
丸兄写真
ほぼ接地タイプのドデカ看板。中折れハットの男性が脱帽しており、ここまでで3パターンの写真が確認できたことになる。そんなことってあるのか。造りの綺麗さからおそらく最新作。ゼロ距離で気迫を浴びることができる

くっきりと看板に浮かぶ“有田最大の展示場”の文字。既視感がある。これは、テレビのテロップだ。

実際に訪ねてみて、そのフレーズは伊逹じゃないとふるえる。なんせ見どころが多すぎる。「一つも取りこぼすまい」とキョロキョロしながら歩いてたら、つい足がもつれそうになった。ふと、昭和の全盛期はどれほどの賑やかさだったのだろうかと想像した。


さて、ここがお待ちかねの本館だ。建物正面——丸兄の顔である。


丸兄写真
城?

時代を感じる「丸兄商社」の屋号看板。あの黄色い看板の“祖”と言ってよいだろう。その下にある「歓」「迎」、そして焼き物で出来た玄関の化粧柱がすばらしく、まるで旅館のようだ。JR有田駅からすぐの場所にあり、列車の旅の途中で立ち寄ることもできる。


まずは一階と二階の展示販売場を練り歩こう。ここを歩くだけでも一時間はほしい。とにかく物量がすごいのだ。


丸兄写真
企業理念が伝わるフレーズがあちこちにちりばめられた一階の売場。すでに物量がすごいことになっている

丸兄写真
二階の展示販売場。日常使いにぴったりなオリジナルブランドの焼き物や、各窯元の銘品がずらりと並ぶ。本当に、ここの地盤ってどうなってるの?と言いたくなるほど物量がすごい
丸兄写真
古伊万里の小皿を着物の柄に見立てて特注した、とても贅沢な作品

四方をぐるりと焼き物が囲む。「探す」というより、「出会うまでウロウロする」してみるのが楽しいかもしれない。


ふだん使いのうつわがワッとひしめいているのも圧巻だが、陶工たちが人生を捧げて作ったであろう大型の作品は特に見ごたえがある。「なんでも鑑定団」の先生方のように鼻息がかかりそうな距離で拝める経験はなかなかない。


まるで老舗旅館のような建物のつくりも魅力的だ。ちょっとした傾斜や階段の昇り降りがあり探検気分が味わえる。


丸兄写真
さらなるお宝が眠るギャラリースペースもある

きゅっと狭い階段で三階にあがると応接室がある。飾り皿や衝立、額縁の絵といった銘品がテーブルをぐるりと囲んでおり、商談もはかどりそう。


なんとここには「一億円の間」という名前がついている。


丸兄写真
商談室であり美術館だ

一瞬、あの自治体泣かせの“一億円トイレ”が頭をよぎったのはわたしだけではないはずだ。そんな好景気とサービス心がバチバチに詰まったのがこの丸兄名物、奥の間ならぬ「億の間」なのである。一億円のほか、三億円、五億円の間もある。


丸兄写真
最高額の「五億円の間」。拝みたくなる

これぞ金ピカの昭和よ!祖母がニヤニヤしながら見せてくれた、金銀宝石がぎっしり詰まったジュエリーボックスを思い出した。


またさらに階段を昇り、そして降りる。辿り着いたのはまるでカフェのような空間だ。あれ、わたし一瞬気絶してた?とおもえるほど雰囲気がガラリと変わっている。ここは、洋風や北欧風のおうちにもピッタリなセレクトコーナー。波佐見焼が中心で、令和のトレンドをしっかりおさえた内容となっている。ショップの名前も「MARUKEI」と、いまを生きている!


丸兄写真
まるでカフェのような雰囲気の「MARUKEI」

ざっと回ってみたが、それでもすごいボリュームだ。じっくり見ようとすれば数時間は必要だろう。


外観をもう一度。昭和と令和のハイブリッド感がすばらしい。


MAEUKEI外観
「MARUKEI」は、もともと商談室および倉庫だった場所を改装している。木の縦格子で壁一面を覆いテイストを分けるナイスアイデア。古着のリメイクってこんな感じでは(画像提供:丸兄商社)

まさに“逆タイムスリップ”。昭和のエネルギーに満ちつつも、令和の時代にちゃんと食らいつくハングリーさも持ちあわせており恐れ入る。


看板以上のボリュームと気迫、芸術品のパレードにもまれまくって、わたしの頭はくらくらしていた。


ここからはちょっと襟を正して、丸兄商社フロアマネージャーの野田さんにお話をうかがおう。


まずは看板のことを聞こう

野田須美子さんの写真
株式会社 丸兄商社 フロアマネージャーの野田須美子さん。

――ずっと丸兄看板のファンでした。

ありがとうございます。目立ちますよね(笑)。看板については多くのお客様からもコメントをいただきます。


――巨大なものから建物からにゅんと伸びているやつ、電柱型など、丸兄看板は色んなタイプがあって見ていて楽しいです。

そうですね。リースもありますし、地主さんに土地をお借りして建てているものもあります。あとはお店を持っていらっしゃる方の、看板の部分だけお借りしています。


――何枚ぐらい設置されているんですか?

正確な枚数は分かっていないんですが、いま少しずつ撤去が進んでまして。ピーク時の半分ぐらいになっているんじゃないかとおもいます。「どこが減ったの?」って、よく言われるんですけど(笑)


――いや、確実に減ってますよ。わたしもドライブしながら「以前ここにあったのに!」と思うことがありました。そもそも、わたしの原風景だった早苗町交差点の看板も今は別の会社さんになってますし……。時代の流れを感じます。

早苗町の方は、道路拡張のお話が出たのと、台風で看板が一部大きく剝がれてしまったのをきっかけに撤去しましたね。以前は等間隔っていうぐらい看板が乱立していたんですよ。けれど、佐賀県から「少し減らしましょう、背の高い看板はやめましょう」という景観条例が出されたりもしまして。また、老朽化で台風の被害に遭ったりと、やはり看板は消耗品だなぁという面も多くてですね。


――維持費がかかりますね。

そう。立て直しをするにも撤去するにも費用がかかるので。枚数がピークだったときだと思いますけど、年間維持費だけでおよそ2000万円ぐらいかかっていたと聞いています。いまは、どうにかコストを抑えるために看板の表面を新しくしたり……という苦肉の策も行っています。


――そういえば、ここに来る途中のトンネルで、見たことのないデザインの看板がありました!ろくろ回してるのが女の子バージョンのやつ。


丸兄看板
看板カラーのお洋服がかわいい

実はそれ、私の娘たちなんです(笑)。小さい頃に撮ったんですけど、「こっちの方がいいよね!」って。


――「えー!かわいい!」と声に出ました。新しいバージョンも素敵ですが、やはり印象に残っているのはこちらの親子でして。彼らの正体は?

丸兄看板
息子さんとおぼしき少年が、カメラで撮っている。「観光で来た」感がとても伝わるいい写真だ

たまたま、ろくろ体験に来てくださったのを……パシャリと。


――えっ、身内の方とかではないんですね! なんだか、お父さんがろくろに夢中でそれをお子さんが撮ってるのが良い。家族旅行のワンシーンが鮮明に残ってて、とても素敵です。

旅行客の方だったので、たぶん看板になっていることはご存じでないはず……。令和の世の中ならありえない話ですね(苦笑)。


――なんと。知らぬ間にイメージアップに貢献していたんですね。「この写真わたしですよ!」って方、この記事をご覧になっていたら、ぜひ丸兄さんへ。そしてまた、ろくろ体験を楽しんでくださいっ! そしてその写真をぜひわたしに撮らせてほしい。


ここからは、あの中折れハットの男性について話を聞いていきます。ぜひご覧ください!


後編へ続く(7月14日公開予定!)

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