クセ強なやきもの商社「丸兄(まるけい)」看板を追いかけて 【前編】
- 山本千尋

- 8 時間前
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ある看板が、あなたの原風景となっていることはないか?わたしはある。
物心ついてから5年間ほど、毎週のように祖父母の家に通っていた。その道すがらに看板はあって、だから実質、祖父母の顔と同じぐらい見ている。
やきもの商社『丸兄(まるけい)』の看板だ。「有田焼のデパート」「陶賓館(とうひんかん)」「毎日陶器市」といった景気のよさを感じるフレーズが躍っている。他にも、古いフィルムカメラの味わいのある親子の写真など、黄色い看板一枚のなかに情報がとことん詰め込まれているのだ。
なかでも印象に残るのは、中折れハットの男性が写った、丸く切り抜かれた写真。卒業写真でやむなく欠席しちゃった人みたいだなと一瞬思ったけれど、それと明らかに違うのは、彼がニヒルかつ爽やかな笑みを浮かべているところだ。写真の下に「いらっしゃい。」とセリフが書いてあるから、きっとお店の偉い人だろう。彼の正体は一体……。
それだけではない。迫りくるデカさ・設置箇所の多さ・形状もさまざまと、とにかく「見てよ!来てよ!」の熱気がスパークしているのだ。
気になってはいた。しかし、隣の佐賀県まで車を運転するのこわいなぁなどと躊躇しているうちに30歳を過ぎた(その頃には車も心も傷ついてたくましくなっていた)。満を持して店舗に足を運んだとき、そこには看板を越えたワンダーランドが広がっていたのである。
ひっくり返りそうになりながらも、同時に知りたくなった。看板のこと、お店の歴史、中折れハットの男性の正体など……。取材をさせてほしいと何度か申し出をし、ようやく了承していただけることとなった。
本年度は終了してしまったが、「有田陶器市」がもう一回やってきたばりの賑やかさでもって、有田のワンダーランド『丸兄』についてお伝えしたい。どうか前編と後編、最後まで読んでほしい。
<目次>
たたずむ、そびえ立つ、迫りくる!バリエーション豊かな丸兄看板
創業100有余年の歴史を持つ『丸兄(まるけい)商社』の看板はとにかくでかい。佐世保市内南部、佐賀県有田町、伊万里市といった、焼き物の産地や観光地エリアといった一等地で存在感を放ちまくっているのだ。
まずはそれらの一部をご紹介しよう。
わたしがもっとも目にしていた、早苗町交差点の丸兄看板から。








こんなにバリエーション豊かな看板を見たことがあるだろうか。わたしはいまだかつてない。「とにかくお店のことを知ってほしい」という強い想い。看板の形も設置場所も、惜しまず妥協しない。きっと、依頼された看板屋さんは大層やりがいを感じたことだろう。
強烈なインパクトを放つ丸兄看板だったが、それらは長い年月をかけて“まちの風景”となったのだ。
丸兄看板マップをつくりました。
上記は埋め込み上手くいかなかったので、各ポイントはちらからごらんくださいませ。
しかしこの看板、真骨頂は本店にあった。
“有田最大の展示場”の名は大げさではなかった

佐世保市内から約30分かけて佐賀県有田町の「丸兄商社」へ。徐々に近づくにつれ、まるで濃霧に突っ込んで行くかのごとく看板の数が増してくる。運転中なのにあちこち目を奪われながら到着。おそらくカーナビは要らなかった。
そして眼前に広がるのは、さらなる看板・看板、そして看板カラーの外装だった。「もう着いた!だからもう大丈夫だ!」とアシタカばりに叫びたくなるのをぐっと堪える。
ふいに、これはきっと選手入場の際に、吹奏楽部がファンファーレを鳴らしてくれているようなものと解釈した。買い物気分を上げてくれる効果があるに違いない。ほら、現にいま、ワクワクしているから。
さぁ、まずは広い敷地内をぐるっと歩いてみようじゃないか。








くっきりと看板に浮かぶ“有田最大の展示場”の文字。既視感がある。これは、テレビのテロップだ。
実際に訪ねてみて、そのフレーズは伊逹じゃないとふるえる。なんせ見どころが多すぎる。「一つも取りこぼすまい」とキョロキョロしながら歩いてたら、つい足がもつれそうになった。ふと、昭和の全盛期はどれほどの賑やかさだったのだろうかと想像した。
さて、ここがお待ちかねの本館だ。建物正面——丸兄の顔である。

時代を感じる「丸兄商社」の屋号看板。あの黄色い看板の“祖”と言ってよいだろう。その下にある「歓」「迎」、そして焼き物で出来た玄関の化粧柱がすばらしく、まるで旅館のようだ。JR有田駅からすぐの場所にあり、列車の旅の途中で立ち寄ることもできる。
まずは一階と二階の展示販売場を練り歩こう。ここを歩くだけでも一時間はほしい。とにかく物量がすごいのだ。



四方をぐるりと焼き物が囲む。「探す」というより、「出会うまでウロウロする」してみるのが楽しいかもしれない。
ふだん使いのうつわがワッとひしめいているのも圧巻だが、陶工たちが人生を捧げて作ったであろう大型の作品は特に見ごたえがある。「なんでも鑑定団」の先生方のように鼻息がかかりそうな距離で拝める経験はなかなかない。
まるで老舗旅館のような建物のつくりも魅力的だ。ちょっとした傾斜や階段の昇り降りがあり探検気分が味わえる。

きゅっと狭い階段で三階にあがると応接室がある。飾り皿や衝立、額縁の絵といった銘品がテーブルをぐるりと囲んでおり、商談もはかどりそう。
なんとここには「一億円の間」という名前がついている。

一瞬、あの自治体泣かせの“一億円トイレ”が頭をよぎったのはわたしだけではないはずだ。そんな好景気とサービス心がバチバチに詰まったのがこの丸兄名物、奥の間ならぬ「億の間」なのである。一億円のほか、三億円、五億円の間もある。

これぞ金ピカの昭和よ!祖母がニヤニヤしながら見せてくれた、金銀宝石がぎっしり詰まったジュエリーボックスを思い出した。
またさらに階段を昇り、そして降りる。辿り着いたのはまるでカフェのような空間だ。あれ、わたし一瞬気絶してた?とおもえるほど雰囲気がガラリと変わっている。ここは、洋風や北欧風のおうちにもピッタリなセレクトコーナー。波佐見焼が中心で、令和のトレンドをしっかりおさえた内容となっている。ショップの名前も「MARUKEI」と、いまを生きている!

ざっと回ってみたが、それでもすごいボリュームだ。じっくり見ようとすれば数時間は必要だろう。
外観をもう一度。昭和と令和のハイブリッド感がすばらしい。

まさに“逆タイムスリップ”。昭和のエネルギーに満ちつつも、令和の時代にちゃんと食らいつくハングリーさも持ちあわせており恐れ入る。
看板以上のボリュームと気迫、芸術品のパレードにもまれまくって、わたしの頭はくらくらしていた。
ここからはちょっと襟を正して、丸兄商社フロアマネージャーの野田さんにお話をうかがおう。
まずは看板のことを聞こう

――ずっと丸兄看板のファンでした。
ありがとうございます。目立ちますよね(笑)。看板については多くのお客様からもコメントをいただきます。
――巨大なものから建物からにゅんと伸びているやつ、電柱型など、丸兄看板は色んなタイプがあって見ていて楽しいです。
そうですね。リースもありますし、地主さんに土地をお借りして建てているものもあります。あとはお店を持っていらっしゃる方の、看板の部分だけお借りしています。
――何枚ぐらい設置されているんですか?
正確な枚数は分かっていないんですが、いま少しずつ撤去が進んでまして。ピーク時の半分ぐらいになっているんじゃないかとおもいます。「どこが減ったの?」って、よく言われるんですけど(笑)
――いや、確実に減ってますよ。わたしもドライブしながら「以前ここにあったのに!」と思うことがありました。そもそも、わたしの原風景だった早苗町交差点の看板も今は別の会社さんになってますし……。時代の流れを感じます。
早苗町の方は、道路拡張のお話が出たのと、台風で看板が一部大きく剝がれてしまったのをきっかけに撤去しましたね。以前は等間隔っていうぐらい看板が乱立していたんですよ。けれど、佐賀県から「少し減らしましょう、背の高い看板はやめましょう」という景観条例が出されたりもしまして。また、老朽化で台風の被害に遭ったりと、やはり看板は消耗品だなぁという面も多くてですね。
――維持費がかかりますね。
そう。立て直しをするにも撤去するにも費用がかかるので。枚数がピークだったときだと思いますけど、年間維持費だけでおよそ2000万円ぐらいかかっていたと聞いています。いまは、どうにかコストを抑えるために看板の表面を新しくしたり……という苦肉の策も行っています。
――そういえば、ここに来る途中のトンネルで、見たことのないデザインの看板がありました!ろくろ回してるのが女の子バージョンのやつ。

実はそれ、私の娘たちなんです(笑)。小さい頃に撮ったんですけど、「こっちの方がいいよね!」って。
――「えー!かわいい!」と声に出ました。新しいバージョンも素敵ですが、やはり印象に残っているのはこちらの親子でして。彼らの正体は?

たまたま、ろくろ体験に来てくださったのを……パシャリと。
――えっ、身内の方とかではないんですね! なんだか、お父さんがろくろに夢中でそれをお子さんが撮ってるのが良い。家族旅行のワンシーンが鮮明に残ってて、とても素敵です。
旅行客の方だったので、たぶん看板になっていることはご存じでないはず……。令和の世の中ならありえない話ですね(苦笑)。
――なんと。知らぬ間にイメージアップに貢献していたんですね。「この写真わたしですよ!」って方、この記事をご覧になっていたら、ぜひ丸兄さんへ。そしてまた、ろくろ体験を楽しんでくださいっ! そしてその写真をぜひわたしに撮らせてほしい。
ここからは、あの中折れハットの男性について話を聞いていきます。ぜひご覧ください!
後編へ続く(7月14日公開予定!)











